(仮)日々の生活(仮)の避難所だけどメインになるかもしれない。
ちなみにプレハブには住んでません。
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掌の中には銀の指輪。
目指すのは粗末な隠れ家「だった」場所。
今では廃材の山でしかない。
黴臭い2階の部屋から見える往来にはいつも、
重々しい足取りの人たちが見えた。
嘗ての繁華街から程近い場所であるにも関わらず、
彼らは希望の欠片も感じさせない顔をしているか、
或いはやせこけた頬にやけにぎらぎらと光る眼を持っているか、
大抵そのどちらかだった。
だから、白い息を吐きながら早足ですれ違った女の
薔薇色の頬、生気に溢れた瞳は殊更美しく見えた。
混乱する戦況、戒厳令、遠くの炎、
そう云ったものの総てが、却って生の実感を滾らせた。
一分一秒でも長く、美しい女の顔を眺め、愛でていたかった。
凍てつくような寒さの日も、二人はあの暗く・天井の低い
部屋へ急ぐのだった。
二人は肌を寄せ合いながら、窓の外を眺める事があった。
外壁一枚を隔てて、絶望的な世界が広がっている。
往き過ぎる人々の髪の毛や指先、市場の果物の一つ一つに至るまで、
湿った空気に犯されているように感じられた。
しかし、この部屋に二人で居る時だけは、そこから逃れ、
何もかもを忘れる事が出来た。先を見据えることさえ出来た。
絶望と希望が交じり合う境界線で、ただ、鉛色の空と
微かに青みがかった海とを言葉も無く見つめていた。
人というより動物としての本能が、彼等を導いたのかもしれなかったが、
研ぎ澄まされた感覚はまた、来るべき不穏な結末をも察していた。
男は、決めかねていた。
この指輪を、女が存在したという唯一の証を、
この街の何処へ葬り去ろうかと。
密会を重ねた、この瓦礫の山の中に。
それとも女の骸の傍に-尤も、それが何処にあるか男には
見当もつかなかったが-。
眼下に広がる憂鬱な色の海を見て、男は思い出していた。
この海を、二人で言葉も無く見ていた時間の事を。
男は、西へ向かう汽車の窓際に頬杖をつき、目を瞑っている。
出来るだけ綺麗な海を探しに。
目指すのは粗末な隠れ家「だった」場所。
今では廃材の山でしかない。
黴臭い2階の部屋から見える往来にはいつも、
重々しい足取りの人たちが見えた。
嘗ての繁華街から程近い場所であるにも関わらず、
彼らは希望の欠片も感じさせない顔をしているか、
或いはやせこけた頬にやけにぎらぎらと光る眼を持っているか、
大抵そのどちらかだった。
だから、白い息を吐きながら早足ですれ違った女の
薔薇色の頬、生気に溢れた瞳は殊更美しく見えた。
混乱する戦況、戒厳令、遠くの炎、
そう云ったものの総てが、却って生の実感を滾らせた。
一分一秒でも長く、美しい女の顔を眺め、愛でていたかった。
凍てつくような寒さの日も、二人はあの暗く・天井の低い
部屋へ急ぐのだった。
二人は肌を寄せ合いながら、窓の外を眺める事があった。
外壁一枚を隔てて、絶望的な世界が広がっている。
往き過ぎる人々の髪の毛や指先、市場の果物の一つ一つに至るまで、
湿った空気に犯されているように感じられた。
しかし、この部屋に二人で居る時だけは、そこから逃れ、
何もかもを忘れる事が出来た。先を見据えることさえ出来た。
絶望と希望が交じり合う境界線で、ただ、鉛色の空と
微かに青みがかった海とを言葉も無く見つめていた。
人というより動物としての本能が、彼等を導いたのかもしれなかったが、
研ぎ澄まされた感覚はまた、来るべき不穏な結末をも察していた。
男は、決めかねていた。
この指輪を、女が存在したという唯一の証を、
この街の何処へ葬り去ろうかと。
密会を重ねた、この瓦礫の山の中に。
それとも女の骸の傍に-尤も、それが何処にあるか男には
見当もつかなかったが-。
眼下に広がる憂鬱な色の海を見て、男は思い出していた。
この海を、二人で言葉も無く見ていた時間の事を。
男は、西へ向かう汽車の窓際に頬杖をつき、目を瞑っている。
出来るだけ綺麗な海を探しに。
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