不肖バイキンマンより。

アンパンマンさんへ。



いつもお世話になっております。バイキンマンです。

今回は、折り入ってアンパンマンさんへお話があって

このようなお手紙を書かせて頂きました。



お話と言うのは他でもない、アンパンマンさんにお願いがあるのです。



わたくしめ、バイキンマンは唯一の協力者であるドキンチャンと数々の悪行を行い、

アンパンマンさんや街の皆様(特にカバオ君)へ多大なるご迷惑をお掛けしました。

時にはそのお顔にカビルンルンを仕向けることによりカビさせてしまったり

放水にてびちょびちょにしてしまったりしましたね。



何故その様にひどい事を、アンパンマンさん、あなたにしてしまったのか。



わたくしは、アンパンマンさんが眩しくて仕方がなかったのです。



わたくしとて、生まれながらに悪者だった訳ではございません。

街のパトロールと悪者退治。

そんな事を生き甲斐にしたいと思った時期もございました。



しかし、お分かりの様に、わたくしめはただのバイキンです。

必ず顔を取替えに来てくれるジャムおじさんや、その顔を全力投球するバタコさん。

おかずパン仲間の皆様や、オイシイ所をたまにもっていくチーズ君等、その他

あなたの持つ様な「武運」に繋がるアドヴァンテージを持ち合わせておりません。



わたくしは、ただのバイキン。

人々からは、嫌悪の対象以上のものであるはずがなかった。

わたくしが強く願えば願うほど、夢は遠ざかって行ったのです。



そんな身の程知らずのジレンマの矛先が、己の内側のみならず

外の世界や人々へ向かってゆくのに、そう時間は必要ありませんでした。



アンパンマンさんは、そんなわたくしを粛正しようとしてくれました。

しかし、そのご好意をも素直に受け取る事が出来なかったのは、

ひとえにわたくしの愚かさが為すところなのでしょう。



これらの要素が、わたくしとアンパンマンさん一派との争いを

極限まで拗らせてしまったのかもしれません。



そこでアンパンマンさん、お願いがあるのです。



きっとわたくしめバイキンマンが、己が悪意に耐え切れず

あなたへ攻撃をする日がそう遠からず訪れるでしょう。

恥ずかしながら、自分でも衝動を抑える事ができないのです。



そこで、次の諍いが起こったら

わたくしめを、アンパンチで一息に葬ってはくれませんか。



アンパンマンさんは、お優しい方です。

救いようが無いほど愚かなわたくしとて、いつもあなたがアンパンチを放つ時、

急所を外して下すって居る事に気が付いて居ないわけではありません。



しかし、そんな優しさが、何より痛いのです。

どんなアンパンチより、どんな激辛カレーより、わたくしの身を酷く切り刻むのです。



自分がどれほど身勝手な事を言っているかは分かっています。



ですが、わたくしめはアンパンマンさんのような陽のあたり続ける方に

トドメを刺されるのであれば本望なのです。



何一つ報われなかったこのわたくしめを、一瞬でも良い、

本気のアンパンチという花を手向ける事により、哀れんではくれませんか。



どうか、わたくしめの最期の我が儘をその寛大で慈悲に溢れたお心を以って

聞き入れてくださいますように―





バイキンマンより。